招かざる客
ピンポーン
繰り返ししつこくインターフォンのチャイムが鳴り続ける。
ちょうど、夜勤明けの眠れない時間を、酒で誤魔化してやっと眠りに落ちたところだった。
「くそっ・・」
思わず口をでた言葉に後押しされるように、ベットから這い出た。
「はい・・どちらさん?」
インターフォン越しからも、ある種の人間がもつ独特の雰囲気が伝わる声で
「小山さん? 小山さんのお宅ですよね」
「私、ゲルドの畑中といいます」
ゲルド?・・・全く聞き覚えがない・・・
「ハッピー信販と言った方がわかりやすいですか?」
畑中が続けて
「小山さん、ハッピー信販から、借り入れがありましたよね・・今日は、その話でお邪魔しました」
ハッピー信販・・・たしか・・・昔お金を借りて・・・途中で返せなくなったサラ金か?
「小山さん、とりあえず玄関開けてもらえませんか どうしてもお伝えしたいお話があるんですわ」
ドンドンドン・・扉を叩く音
「小山さ~ん・・小山一郎さ~ん」
インターフォンを使わずに大きな声で名前を呼ばれた。
玄関を開けると、畑中の他にもう一人、鈴山と名乗る男が待っていた。
消滅時効完成後の弁済
畑中の要件を要約すると
ゲルドはハッピー信販が商号を変更した会社であること
平成12年3月5日に契約した金銭消費貸借に基づき、ハッピー信販が小山に貸し出した貸金が、完済されずに残っていること
その金額は、
残元金20万円
遅延損害金102万円
合計 122万円
これを支払って欲しい。
というものだ。
畑中は、言葉遣いが悪いとまでは言わないが、全体から受ける印象はとても強圧的に感じた。
結局、畑中と鈴山は30分近く居座った。
いや、居座ったと言う表現は正しくはないのかもしれないが、とりあえず幾らかでもその場で返済をしないと帰ってくれないと感じたのは事実だった。
小山が差し出した5000円を受取り、ようやく畑中たちは帰っていった。
後書き
(1)ゲルドの貸し金返還をもとめる行為自体に問題があるとは言えないが、このケースをよくよく確認していくと、小山氏が、ハッピー信販に最後に返金をおこなったのは、平成14年6月28日であることがわかりました。
(2)ゲルド(ハッピー信販)と小山氏とは、約12年前から取引がありませんでしたので、このケースの場合には、小山氏は、消滅時効の援用を行うことができました(なお、一般的なサラ金の場合の消滅時効は、法人のサラ金が5年、個人のサラ金が10年です)。
(3)しかし、今回のゲルドの訪問で金額の多寡を問わず、その一部を返済してしまったことで、小山氏は「ゲルドに対する債務を承認」してしまったことになります。
(4)このような場合でも、小山氏は消滅時効の援用ができるのでしょうか?
(5)原則として、債務の弁済は、債務の承認と考えられ、債務を承認することによって、消滅時効の援用を行えなくなると考えられます(勿論この場合でも、再び5年なり10年が過ぎればその段階で消滅時効を援用することは可能)。
(6)今回のケースでも、原則として「消滅時効の援用ができなくなった」と考えられますが・・・・
消滅時効完成後に行った弁済後の消滅時効の援用の可否
(7)大阪地判平成26年6月18日(対ギルド、控訴審、時効完成後の弁済事案につき時効援用の可否、肯定)
つまり、裁判で、今回と同様の「時効が完成した後に弁済した」ようなのケースでも、事案によっては消滅時効を援用することができると判断されるケースもあります(勿論、この逆で消滅時効の援用はできないとの判断された裁判もあります)。
(8)もしも、このケースのように、突然の来訪で、一部を弁済してしまった場合でも、まだ争う余地があるということを覚えておいてください。
(9)但し、この場合・・・裁判で消滅時効の援用が認められた場合には、相手方は控訴してきますので、長期間の争いになる覚悟は必要です。
(10)一番大切な事は、
① 消滅時効という制度があることを知っておくこと
② 何を言われても、その場では一円も支払わないこと
③ 直ぐに、司法書士や弁護士に相談すること
④ 消滅時効の援用ができる場合は、必ず時効を援用しておくこと
⑤ 一人で悩まないこと
そして
⑥ 相手方が尋ねてきた日時、状況、話の内容などを詳細に記録にとっておくこと
です。
※ 本ブログの内容はフィクションです。 実際に存在する如何なる個人団体とも関係ありません。
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