平成25(ワ)51号 損害賠償請求事件
何かと批判の多い、「もらい事故」に関する判決文が入手できる状態となりましたので、早速読んでみました(^^)/。
判決にご興味があれば・・全31頁もありますが・・・
もらい事故の判決文
をご確認ください。
今日はできるだけ簡単に判決の内容をご説明してみます。
平成27年4月13日
裁判所名・部
福井地方裁判所 民事部
判示事項の要旨
中央線を越えて対向車線に進行した車両甲が対向車線を走行してきた車両乙と正面衝突し,車両甲の同乗者が死亡した事故について,同乗者の遺族が,車両乙の運行供用者であり,当該車両の運転者の使用者でもある会社に対し,自動車損害賠償保障法3条及び民法715条に基づき損害賠償を求めた事案において,車両乙の運転者は,より早い段階で車両甲を発見し,急制動の措置を講じることによって衝突を回避すること等ができた可能性が否定できず,前方不注視の過失がなかったとはいえないが,他方で,どの時点で車両甲を発見できたかを証拠上認定することができない以上,上記過失があったと認めることもできないから,会社は,自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償義務を負うが,民法715条に基づく損害賠償義務は負わないとした事例
参考条文
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
判決文から読み取れたことを書いてみます。
※ ただし、かなり省略して書きますので・・・
正確な判断がしたい人、若しくは、詳細を知りたい人は、必ず判決文を熟読してくださいねm(_ _)m。
さて、
判決文に登場する主な人物のご紹介
- A
- 中央車線をはみ出して対向車に「ぶつけた車の運転していた人」
- B
- 中央車線をはみ出して対向車に「ぶつけた車の助手席に座って死亡したG(ぶつかった車の所有者)の妻」
- C
- 中央車線をはみ出して対向車に「ぶつけた車の助手席に座って死亡したG(ぶつかった車の所有者)の父」
- D
- 中央車線をはみ出して対向車に「ぶつけた車の助手席に座って死亡したG(ぶつかった車の所有者)の母」
- E
- ぶつけられた車の所有者で、Fの使用者
- F
- ぶつけられた車を運転していた人(Eの代表取締役)
- 訴外G
- 中央車線をはみ出して対向車にぶつかった車の助手席に座っていた「ぶつかった車の所有者」でこの事故により死亡した人
判決文に登場する主な車のご紹介
- F車
- Fが代表取締役を務めるE法人が所有する車
- 本件事故当時,F車を自己の運行の用に供していた。
- G車
- 本件事故で亡くなったGが所有する車
- 亡Gは,本件事故当時,G車を自己の運行の用に供していた。
※ 下図は、イメージ図です。
事故の形態(詳細は判決文を確認してね)
- この事故は、南北に走る片側一車線(片側の幅員約3.5メートル・路側帯0.6メートル・路側帯の外側にガードレールあり)の対面道路(中央は追越し禁止の黄色の線あり)、を、それぞれ制限速度内の時速50kmで走行していた車の一方が居眠り運転により、対向車側に約50センチ程度はみ出して車を走らせたことに起因して、対向車どおしが正面衝突を起こしたものである。
- 南から北へ走るG車を運転するA(その助手席でシートベルトをせずにGが座っていた)が、居眠り運転によって、F車と衝突する地点より約80メートル手前から道路中央線を逸脱し始めた。対向車線に約50センチ程度車体がはみ出た状態で時速50キロで走行していた。
- この時に、 Fの運転するF車は、北から南へ時速50キロの速度で車を走らせていた。
- Fの運転するF車の前に二台の車が走行していた。
- Fは、向かって道路の左端を歩く歩行者に注意が向いていた。
- F車の前を走る二台の車は、対向車が道路の中央をはみ出して走ってくるG車に気付き、向かって道路の左側に車を寄せてG車をやり過ごしたが、歩行者に気を取られていたF車の運転手Fは、G車に気がつくことが遅れ、道路の中央をはみ出して走るG車と正面衝突をした。
- この事故により、G車の助手席に乗っていたGが数時間後に死亡、F車を運転していたFも相当期間の入院(全治二ヶ月の入院加療)を余儀なくされ、Fが事故の実況見分調書を取られたのは、事故から1ヶ月以上が過ぎてからだった。
- 本件事故現場付近の見通しは良く、視界を妨げる障害物はない。また、本件事故時の天候は曇りであり、本件事故現場付近の路面は乾燥していた。
事故の状況をアニメーションにしてみました。
たぶん・・こんな感じかな??
争点(詳細は判決文を確認してね)
- 甲事件関係
- 本件事故の態様並びに原告 Fの過失の有無及び責任原因
- 過失相殺
- 亡G及び、原告Bらの損害及びその額
- 乙事件関係
- 本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び過失割合
- 原告Fの損害及びその額
B・C・Dが原告として、AとEを被告として損害賠償の支払いを求めた事件
乙事件
Fが原告として、Aを被告として
また
Fが原告として、甲事件の原告であるB・C・Dに対して損害賠償の支払いを求めた事件
原告B・C・Dの言い分(詳細は判決文を確認してね)
- 被告Eは、F車の運行供用者であるから、自賠法3条に基づき、本件事故により亡G及び原告Bらに生じた損害を賠償すべき責任がある。
- 原告Fは、前方の安全を十分に確認して運転すべき注意義務があったのに、これを怠り、自車の左方にいた歩行者に気を取られてG車の発見が遅れたために、G車に衝突した。本件事故の直前、F車の前方には先行車が2台いたところ、これらの車両は、中央線を越えて北進車線に進入してきたG車を回避していることからも、原告Fに前方不注視の過失があったことは明らかである。
- 原告Fが,より早くG車を発見していれば,対向車線(南進車線)に回避する、その場で停止する、クラクションを鳴らすなどの措置を執ることも可能であり、その場合、少なくとも亡Gが死亡するという重大な結果は避けられた可能性がある。
したがって、本件事故について、原告Fにも前方不注視の過失があることは明らかであり、自賠法3条ただし書の適用はない。 - 本件事故について、原告Fあるところ、被告Eは、F車を運転していた原告Fの使用者であり、原告Fは、本件事故当時、被告Eの業務に従事していた。
したがって、被告Eは、原告Bらに対し、民法715条に基づく使用者責任も負う。
被告E、及び、原告Fの言い分(詳細は判決文を確認してね)
- 本件事故は,被告AがG車を対向車線に逸脱させたという、被告Aの一方的な過失によって生じたものであり、原告Fは本件事故について無過失である
- F車の前には先行車がいたためにF車からはG車の動向を発見しづらい状況にあったことや、F車が進行していた北進車線は、上記衝突地点の手前(南側)約100mにわたって路側帯が約0.6mしかなく、その外側にはガードレールが設置されていたために、F車がG車を回避できる余地はなかった
- そもそも、対向車を避けるために対向車線に回避することは極めて危険な行為であるし、自車の前方に対向車が迫っているという緊急事態において、咄嗟にその場で停止をしたり、クラクションを鳴らすなどの回避措置を講ずることも困難である。さらに、仮に原告Fが上記の措置を講じていたとしても、G車との衝突や、亡Gの死亡という結果が避けられた可能性があるとはいえないので、原告Fには過失はなかった
福井地裁の判断(詳細は判決文を確認してね)
- 被告Aには、自らが運転していたG車を対向車線に逸脱させた過失があることは争いが無く、本件事故の発生について、被告Aに極めて重大な過失があることは明らか
- 原告Fは、本件事故直前に北進車線の路側帯の歩行者を見たこと自体は認めているところ、本件全証拠によっても、原告Fが脇見をしていた正確な地点及びその時間は明らかではない。
- 原告Fにおいて、路側帯の歩行者の動向に注意を払うべき事情があったとしても、原告Fが自認しているとおり、歩行者の動向に注意を払うのと同時に、進行道路前方を注視することも不可能ではないことからすれば、原告Fに前方不注視の過失があったかどうかを判断するに当たっては、結局、原告Fにおいて、どの段階でG車の動向に気づくことが可能であったかが問題となる。
- 上記の点を裁判所は、「先行車②とF車が64m以上離れていた可能性もあるところ、その場合には、F車は、さらに手前(南側)の位置でG車の動向を発見することができた可能性が高い」と認定し、「本件事故について、原告Fに前方不注視の過失がなかったということはできない」と判断している。
- ただし,その一方で「本件事故について,原告Fに前方不注視の過失があったということもできない」とも判断している。
- 本件事故について原告Fは無過失であったと認めることはできない一方、原告Fに過失があったとも認められない。したがって、被告Eは、原告Bらに対し、自賠法3条に基づき、本件事故により亡Gの生命又は身体が害されたことにより受けた損害の限度でこれを賠償する義務を負う一方、民法715条に基づく損害賠償義務を負わない。
以上を踏まえての判決内容・・
福井地裁の判決(詳細は判決文を確認してね)
- Aは、Bへ5223万円支払え
- Aは、CDへ1500万円支払え
- Eは、Bへ3112万円支払え
- Eは、CDへ893万円支払え
- Aは、Fへ1472万円支払え
- Bは、Fへ981万円支払え
- CDは、Fへ245万円支払え
- BCDFのその余の請求を棄却する
- その他・・裁判費用の判断
となっています(数字は1000円未満切り捨て)。
で・・この裁判は正しいのか?
さて、ここまでおつきあいしてくれてありがとうございます。
ところで、
この裁判・・・かなり非難されてましたね。
正直・・私としてはもっとFに過失があるのかと考えていましたが・・・
判決文のみで判断すると、この事件で「Fに過失が無いとはいえない」というこの事実認定の仕方は、かなり無理があるのではないだろうか?
と思うわけです。
とはいえ・・・
上の図のように、急に対向車が突っ込んできた様な場合と違い、
本件事故は、下図のようになるわけで・・・
もっとも・・・・・
現実に先行車が二台、同じような状況でG車をかわしたとはいえ、だからF車もかわせたハズだから、「F車に過失がないとはいえない」というのは、ちょっと酷なんじゃないだろうかと思う反面、事実認定の思考の過程においては、この判決を全面的に否定するのもちょっと違うような気もしています。
まぁ・・・、
だからといってこの事案で、この判決の内容を容認することはできません
もちろん、それには私なりの理由があります。
この判決がクソなところとは?
ちょっと思い出してください。
小学校の時代に
こんな計算式を習いませんでしたか?
問題
ある距離を、ある速度で進んだ時にかかる時間を求める公式を答えなさい?
答え
時間 = 距離 ÷ 速度
上の計算式を本事件に当てはめて考えてみましょう。
まず速度についてですが、
それぞれが50kmで走っていたのですから、単純に速度は倍の100kmということになります。
次に距離についてですが、
判決によると前車との距離が約64m・・ちょっと多めに見て70mの距離で、F車がG車を見つけたとします。
すると・・・
時間=70m➗100km
となり、計算すると・・時間=2.52秒となります。
さて・・・約2.5秒で何ができるでしょうか?
私なら、
対向車が中央線を越境して走っていることを視認して、それが脳に伝達されて、対向車が自分に突っ込んでくるという異常事態を認識し、何をするべきかを考えて体に指示を出すのに、おそらく1秒はかかる自信があります。
そこで残りは約1秒半・・・
ブレーキを踏んで、車に制動力が伝わり速度が落ち始めるのに、さらに0.5秒・・・
ここまでで、1秒半も使いました・・(⌒-⌒; )
のこり1秒・・
対向車との距離約28.33m・・・
ブレーキでこちらの速度が落ちて、0.5秒の余裕が追加されたと仮定しても、衝突まで残り1秒半・・
1秒半という時間で、歩行者や自車の周りを視認も行い安全を確認して、なお、自車に突っ込んでくる対向車を避けることができるだろうか??
避けれるような気もするし・・無理な気もする・・
いや・・どうだろう・・
やっぱり、これで対向車を避けることができる気がしないかもしれない(/ _ ; )・・
何れにしても、
こんな状況で、「過失が否定できない」などと言われるのは、言いがかりだとしか思えない。
まぁ、きっと・・・
この事実認定で、過失がないとは言えないという判断ができる裁判官は、車の運転中は常に四六時中自車のまわりに気をくばりつずけることが出来て、さらに、さぞかし運転がレーサー並みに上手で的確な操作・冷静な判断ができる人なんだろうと思う・・
従って、
本当にそんなことができるのか否かを是非実際に自分で経験してほしいものだ・・
そうすれば、
この判決の事実認定がいかに理不尽なものであるかきっと身をもって感じると思うのだ!
それでも、実際にこんなふうに
中には変わった事実認定で突っ込んでこられた側に損害賠償を命じる判断がされることがある
ということは肝に銘じて、安全運転を愉しみましょう。
相談のご予約メールフォームはこちら
「有料電話相談」はこちら
今日の一言
「新緑に、騙され笑う、更衣」
今日の一曲
言葉にできない オフコース