今日のパラドックス
パラドックス = 正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉
今日は、相続放棄にまつわるパラドックス的なお話をお送りしますが、自分の頭の整理の為に書いているようなものですので間違ってもこの件で私に相談しないでね(笑)
相続放棄は取り消しに関するパラドックス
まずは、民法の条文を確認してみましょう♪
民法919条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)の一部要約
つづいて
民法第921条(法定単純承認)の一部要約
さて、相続の放棄と相続の単純承認に関する条文を見比べて気が付いたことはないだろうか?
民法919条では、
「一度行った相続放棄は取り消すことができない」
と定められているのに、
民法921条では、
「相続放棄を行った後でも、相続財産を隠したり消費してしまった場合には、単純承認したものとみなす」
と定められています。
ん・・・ということは・・・
いったん行った相続放棄は取り消せないけれども、単純承認とみなされることをすれば相続放棄を取り消したのと同じことになっちゃう・・ということなの??
ん・・それって、なんかおかしいような気がするけど・・そこでちょっと考えてみました。
無間地獄
昨日(平成26年10月9日(木))のブログ「相続放棄の落とし穴」を思いだしてください。
右図(若しくは、上図)をクリック♪
子供が相続放棄をしてしまったばかりに、亡くなった父親の兄弟姉妹が相続人になってしまい、遺産分割協議を行うことが困難な状況となった話でした。
兄弟姉妹と遺産分割協議ができないので、やむなく
相続放棄をした子どもの含めて法定相続で登記をした
としましょう。
そうすると・・・
相続放棄をしたはずの子どもは、相続放棄を行った後に相続財産を消費したことになり、民法921条によって、相続放棄を取り消すことができたことになり・・・めでたしめでたし・・となるのでしょうか???
しかし、そんなことができてしまうとすると・・・
そもそも、民法919条の
「一度行った相続放棄は取り消すことができない」
という定めは何の意味ももたないことにならないだろうか?
ここで、もう一つ民法の条文を確認しておきたいと思います。
民法939条(相続放棄の効果)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
この民法939条は
「相続放棄をした者は初めから相続人ではない」
と定められています。
これら条文の整合性をどのように考えればよいのでしょうか?
相続放棄をした者の立場
相続放棄をした者は、
初めから相続人ではなかった
ことになる(民法939条)
とするならば、一旦相続放棄をした人が、相続放棄をした後に、被相続人の不動産について法定相続分などで相続登記を行ったり、相続を放棄した者と遺産分割協議を行って相続登記をした場合、そもそもこの登記は有効なものなのだろうか??という疑問がわきますよね?
私見を述べると、
相続人では無い者に相続登記をしてしまったとしても、
また、
相続人ではない人と遺産分割協議を行い相続の登記が行われたとしても、
それによって相続を単純承認したものとは言えず、
単純に本来登記権利者(相続人)ではない人に誤って所有権移転登記をしてしまった
=無権利者に対する不実の登記をしてしまった・・・
又は、
無関係の者がした無効な遺産分割協議で不実の登記を行った
ということであり、これ(相続放棄を行った人が相続登記をやろうとしていること)を知りながらわざと登記を申請すると、公正証書等原本不実記載罪が成立するものと考えます。
では、
民法921条の定めの意味とは何でしょうか?
これも私見ですが、この定めは、おそらく第三者を保護するための定めではないのかと考えています。
つまり・・・
被相続人(亡くなった人)にお金を貸していた人などの債権者がいた場合、当然相続人にその貸し金返還請求を行うこととなります。
その際に、相続放棄をした相続人には何も請求できません。
ソレを良いコトに、相続放棄をした相続人が、こっそりと相続財産を使い込んでしまった場合があったとしましょう。
その場合・・相続放棄をしたはずの相続人が相続財産を消費している事実を債権者が知ってしまった場合に、一方で相続債務を支払うのが嫌で相続放棄をしておきながら、一方で債権者が借金の返済の確保のための財産を消費している事実をほおっておくことはできません。
結局、このような場合には、被相続人の債権者は、相続放棄をした相続人の「相続放棄が無効である」という裁判を起こし、相続放棄を無効にして、相続人の財産を返済に充てることができます。
ようするに・・この部分において、民法921条の定めには意味があると考えられます。
まぁ、正直なところ・・条文を右から読むか?? 左から読むか?? によって結論がかわる可能性があるので断定的なことはいいませんが・・・
というのが、私の考えです。
ということで、昨日(平成26年10月9日(木))の
ブログ「相続放棄の落とし穴」
のような場合に、夫の兄弟とは遺産分割協議ができないからといって、一旦相続を放棄した子どもを含めて法定相続分で相続を行ったり、相続放棄を行った子どもと遺産分割協議をすることには何の意味がないばかりか、場合によっては刑法犯が成立する可能性があると考える次第です。
但し、相続放棄等に関する最判で
最判昭和40年5月27日判示413-58
相続放棄は家庭裁判所がその申述を受理することにより効力を生じるものであるが、その本質は私法上の財産上の法律行為であるから民法95条の錯誤による無効の適用がある。
というものがありますので、一旦行った相続放棄を取り消すことはできないが、錯誤による無効を主張することは可能だと考えられます。
よって、
昨日(平成26年10月9日(木))の
ブログ「相続放棄の落とし穴」
のような場合でも、錯誤を理由として、自分が行った相続放棄が錯誤により無効である旨の確認訴訟を争うことはできると考えられますが、だからといってそういう手順を踏まずに自力救済的な勝手に相続財産を消費等を行った場合にまで、一旦行った相続放棄を覆して単純承認されたものと考えるのは無理があると思います。
※ ここで問題となるのが、相続放棄の錯誤無効の確認訴訟の相手方ですね・・・相続放棄をした人が訴える場合には、国を相手にするしかないですか??
※ それとも、他の相続人・・・昨日のブログの場合なら、「母」を相手にするのかな?? まぁ、実際にそんな裁判をしなければならなくなった、その時に考えますか(笑)
まぁ、ついでなんで・・・
相続放棄を取り消すことができる場合
☆ 相続放棄を取り消すことができる場合として
(1)詐欺によって相続放棄をした場合
(2)強迫によって相続放棄をした場合
(3)未成年者が親権者の同意を得ないで承認・放棄をした場合
があります。
これらの場合には、
6ヶ月以内に取り消さなければなりません。
但し!!
「相続の放棄」は、もともと相手方のいない単独行為なので、その取り消し方法についても、それなりに厳格な方式によって行う必要があります。
つまり、「相続の放棄」を取り消す場合には、その旨を家庭裁判所に申立てて、その審判の確定によって、初めて取消しの効果が生じることとなります。
が・・・しつこいですが、
昨日(平成26年10月9日(木))の
ブログ「相続放棄の落とし穴」
のような場合には、元々の相続放棄の申述自体に、「詐欺」も「脅迫」もありませんので、そもそも「相続放棄」を取り消すための理由がありません。
なので
どう転んでも、どうしても、一旦行った相続放棄をなかったものとするためには、
錯誤を理由
として、自分が行った相続放棄が錯誤により無効である旨の
確認訴訟を争う
ことになると考えます。
と・・・ここまで書いたのですが・・・
実は、最判昭和30年9月30日判決で、相続人間で一人の相続人に遺産を相続させるためにその余の相続人全員が相続放棄を行ったが、後に一人で相続した相続人を被告として、「相続放棄無効確認訴訟」を提起した事案につき、「相続放棄の無効なるに因っていかなる具体的な権利又は法律関係の存在若しくは不存在の確認を求める趣旨であるのかが明確でない」として、このような無効確認の訴えを不適法とした判例もあり、この「相続放棄が無効がという確認訴訟」を訴えることができるのか??・・ということには色々な問題があります。
え~っと・・もしも間違っていたらやさしくご指摘ください(爆)
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