CSRという言葉をごぞんじでしょうか?
今日は、まじめに
「企業の社会的責任(CSR・Corporate Social Responsibility)」
についてです。
かなり長いですが、よければ
おつきあいください・・(^^;)
CSR
CSRとは「企業が,市民,地域及び社会を利するような形で、「経済上」「環境上」「社会上」の問題に取り組む場合のバランスのとれたアプローチ」をいいます。
ビジネスの今後の更なるグローバル化等が進むにつれ(特に多国籍企業等)、競争力の確保と発展の観点からもCSRは重要です。
しかし、実は大企業だけではなく中小需細企業に至るまで、全ての企業にとってCSRは重要なのです。
近年企業による倫理観に欠けた不祥事を受け、経済犯罪の厳罰化、消費者の企業へ対する意識や行動の変化など企業を取り囲む外部の環境が大きく変わっています。
企業の不祥事が一旦明るみにでて露見すると、その情報は短時間で利害関係人の知るところとなるばかりか、インターネットなどを通じて一般消費者等にも情報が伝達されることとなり、企業にとって著しいダメージを被ることとなり、企業にはCSRに真剣な取組みが求められています。
CSRの二面性
一口にCSRと言っても、ネガティブなもの(社会にマイナスのイメージを伝えるもの)、例えば法令違反や社会規範からの逸脱という「ネガティブ・インパクト」をコントロールして受けるダメージを減らす等の取組みと、ポジティブなもの(社会的にプラスの影響)、「ポジティブ・インパクト」という二面性をもっています。
社会や市場が経済的な企業の経済的側面としてのパフォーマンスの向上、環境的側面としての環境問題への取組み等の社会的側面への配慮を求めるだけでなく、CSRをバランス良くはたしていこうとする企業を評価し、競争力に代える動きが必要となります。
CSRのメリット
CSRへの取組みを進めていくことで考えられる、企業にとってのメリットには
(1)組織の継続的・安定的な成長
(2)社会からの信頼性の確保
(3)グローバル市場での企業競争力の向上
(4)効果的なコンプライアンス手法の提供
(5)地域社会との協調
(6)社会的責任投資=SRI(Socially ResppnsibleInvestment)からの支持
などがあり、逆に、CSRを怠って不祥事や社会問題を起こせば、社会からの批判や、SRIによる企業淘汰を受けることとなります。
ところでこの話をするのは、勿論オリンパスの事が念頭にあります。
日本を代表する会社の不祥事に日本社会がどのように対処するのかを注目していきたいと思います。
司法書士の社会的責任とは何なのか?
では、個人の資格者としての「社会的責任」と「資格者団体としての社会的責任」についても、少し考えてみたいと思います。
CSR=「企業の社会的責任」
です。
「労働関係のCSR」とは??
「CSR」については、環境についての取組みやコンプライアンス、コーポレート、ガバナンス、社会貢献などに関する対応は進みつつありますが、残念ながら労働CSRについてはあまり進展していないのが実情のようです。
労働CSRの対象範囲は、自社のコンプライアンスとして「差別問題」・「過労死」・「セクハラ」・「人材マネージメント」・「サービス残業」の他、子会社等のグループ企業や、取引先、業務委託先における問題も含まれます。
労働者の基本的人権保護や適正な労働環境の遵守に関する規範を定めた労働関係の企画である「SA8000」の認証取得による労働関係のコンプライアンス体制を強化(労働条件等の継続的な水準向上が目的)する取組みもみられます。
「労働CSR」の労働コンプライアンス
(1)基本的人権について
①人権の問題については、職場における問題としてセクシャルハラスメント、パワーハラスメント、従業員のプライバシーの保護,児童労働,奴隷的労働や各種差別が問題となっています。
②人権問題が顕在化すると極度に企業イメージが悪化するばかりでなく、訴訟費用や賠償金の支払い等による多大な損害が発生することもありますので予防的教育や指導の徹底が求められています。
(2)労基法等の法令について
①労働コンプライアンスにおいて、主要法令として「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」とその関連法令や、社会保険関連法令、税法関連法令、商法や会社法関連法令があります。
②特に「労働基準法」は、労働時間や休日について問題となることが多く、就業規則の「周知性」がその効力要件とされているのが確立した実務の取扱です。
(3)残業について
① 労基法は原則として法定労働時間を超える労働を禁じています。
例外的に時間外労働、休日労働に関する協定(通称・三六(サブロク)協定)を労使間で締結した場合に限り残業することが許されます。
また、三六協定を前提とした時間外労働の要件(※1)を遵守することが必要です。
②いわゆるサービス残業は完全に違法であり、未払残業代には裁判により、未払の残業代や付加金(※2)を支払うこととなる企業が増えていますし、企業イメージも悪化するなど多大の損失を受けることとなります。
※1 時間外労働の要件
ⅰ 三六協定の適正な締結
ⅱ 時間外労働の限度時間の遵守
ⅲ 時間外・休日・深夜労働への適正な対価の支払い
※2 「付加金」とは
裁判所は、使用者が解雇予告手当・休業手当・残業手当・有給休暇の賃金につき未払金の他、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる(労働基準法第114条)。
(4)個人情報について
2005年4月に施行された「個人情報の保護に関する法律」に基づき,厚生労働省は、「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」についてガイドラインを作成しています。
ガイドラインの趣旨は、個人情報保護法の規定に基づき雇用管理の観点から事業者が構ずべき措置に関しての指針として
① 雇用管理情報について
ⅰ 病歴、収入、家族関係といった特殊性を含むことに鑑み、以下の項目について、その適切な取扱いを企業に要請。
ⅱ 収集する個人情報の利用目的を具体的に特定
ⅲ 安全管理措置として,個人データ管理者を事業所ごとに設置すること
ⅳ 個人データの処理を外部に委託する場合,再委託の制限に関して利用目的達成後の確実な破棄、削除などの徹底
ⅴ 労働組合の役割として,企業が個人情報の取扱いについて、重要事項を決定する場合における組合との事前協議を行うこと
等を定めている。
(5)非正規従業員
①コスト増の関係から
一部企業が,本来は社会保険・労働保険への加入が必要となるアルバイトやパート従業員を故意に各種保険に加入させないという問題が社会問題となっています。会社のコンプライアンスからもこれは根絶すべき問題です。
②外部社員として
「派遣社員」「請負社員」の活用が増加していますが、これら外部社員の社会保険未加入の問題が大きな問題となっています。
③「疑似派遣」「偽装請負」
の問題や、過酷な労働を強いることになりがちな業種(運送業等)の労働環境については、自社のみならず取引先企業の体質にも注意をしておく必要があります。
④外国人労働者
の場合には、在留資格を持たない外国人は絶対に雇用してはいけませんし、不法滞在者やオーバースティ(不法在留者)の弱みにつけ込む劣悪な環境で働かせる取引先とは取引自体を考え直すべきでしょう。
ところで、
例えば、従業員が「社有車で接触事故を起こした場合」にどう対応すれば良いのでしょうか?
例えば、「接触事故等を起こした場合には一律5万円を罰金として科す」ということができるでしょうか?
ここで考えないといけないことは3つあります。
一つ目は、
接触事故といっても、本人の過失割合を考慮しなければいけません。
不注意によりガードレールに接触した場合は本人に責任がありますが、車両同士の接触の場合は事故の相手にも責任があります。
それを考慮しないで一律に罰金を科することに問題があります。
二つ目は、
実際の修理代金の額を上回ってしまう可能性があることです。
勿論,修理代金に数十万円かかる場合もあることを考慮しても問題があります。
三つ目の問題
これが一番重要なんですが、この取決めは「労基法」に違反します。
「労基法」では、損害賠償を予定することを禁止しています。
但し、修理代を弁償させてはいけないと言っているのではありません。
修理代を弁償させることには問題はありません。
ただし修理代を弁償させるとした場合でも、100%を負担させることには問題があります。
通常、社有車を運転するのは、会社のために働いている場合と考えられますので、そうであれば会社には使用者責任と、報償責任(※3)があるのです。
※3 報償責任とは?
「利益あるところに損失あり」=会社は労働者を使用して利益を上げている以上、損失も負担すべきという考え方です。
以上をまとめると,
① 会社が被った損害が従業員に責任がある場合は弁償させることができます。
② しかし、弁償額をあらかじめ決めることは違法となります。
③ 会社には使用者責任や報償責任があるので、従業員に弁償額全額を請求することはできません。
となります。
私たち司法書士も仕事で車をよく使います。
上の話は他人事ではありません。
車の運転を含め,色々と十分注意しましょうね。
さて、長かった「CSR」の話もいよいよ終わりが近づいてきました。
「労働CSR」の「雇用問題」と「安全衛生」について
1 労働CSRにおける雇用問題
(1)CSRとしての雇用問題
として問題となるのは、
「雇用は企業の社会的責任か?」
という点です。
この点についてはかっての日本的経営の観点では、「終身雇用制」の維持努力によって、労使の一体感と社員一丸となって経営目標に邁進するという原動力の役割を果たしていました。
しかしバブル経済の崩壊後にリストラの嵐が吹き荒れて、終身雇用制は次第に放棄されていき、雇用問題について企業の社会的責任を堅持する経営者は少なくなってきていると考えられていますが,それでも尚留意すべきことがあります。
①雇用維持のメリットとして
従業員のモラル・忠誠心の確保・優秀な人材の確保(流失防止)・地域社会や国家・消費者からの信頼と顧客基盤の維持拡大強化等が考えられます。
また、今後の少子高齢化が進む中でフリーターやニート等の増加を考えれば、良い労働条件と安定した地位の保障された企業に優秀な人材が集まるものと考えられます。
その意味で企業力の維持の観点から雇用は非常に重要なファクターであり、積極的に「雇用創出」に努力することはCSRの観点からも望ましいと考えます。
(2)「雇用維持」に関する「ネガティブインパクト」と「ポジティブインパクト」
①雇用維持についてのネガティブインパクトとは
ⅰ 法令や判例に反するリストラや解雇を行わないこと
ⅱ リストラの際の企業からの情報開示と真摯な労使協議をすべきこと
ⅲ 失職者に対する再就職支援や職業紹介の努力等が要求されます。
②雇用の維持についてポジティブインパクトとは
ⅰ 雇用の維持
企業の業績の継続的安定と利益計上が当然の前提となります。
ⅱ 職業教育
雇用維持が残念ながら出来ない事態に備えて「エンポロイアビリティ」を獲得させることが企業の社会的な責任と言われています。
ⅲ 雇用の創出
新卒者の定期的採用を続けることや,各種助成金の活用による雇用を創出すること
③雇用の維持についてのポジティブインパクトの具体例
ⅰ 報酬制度の改革
ⅱ ワークシェアリング
ⅲ 定年後の再雇用制度の導入
ⅳ 人材教育・人材開発体制の強化
ⅴ インターシップ制度の導入
ⅵ 各種助成金の検討活用
④多様化への対応
ⅰ 男女雇用機会均等法の遵守
ⅱ 育児休業法の遵守
ⅲ ポジティブアクション(女性労働者の能力発揮促進のための企業の自主的取組に関するガイドライン)の推進
ⅳ セクシュアル・ハラスメントに関する雇用管理上の配慮の徹底
ⅴ 母性保護等に関する法律及び指針の周知徹底等
ⅵ 妊娠、出産を理由とする不利益取扱いへの対応の検討
ⅶ 在職中の女性に対する能力開発等の支援(情報提供・相談・研修等の拡充)
ⅷ 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律及び指針の周知・徹底等
ⅸ パートタイム労働者の労働条件の明示の徹底
ⅹ 派遣労働者の適正な派遣就業の確保
⑤障がい者への対応
ⅰ 障がい者の雇用の促進等に関する法律に定められた障がい者の雇用率の遵守
2 労働CSRにおける安全衛生
従来からある労働災害の他に,職場におけるメンタルヘルスや過労死が大きな問題となっています。
(1)メンタルヘルス問題
① 労働者のメンタルヘルス
=「労働者のこころの健康」が損なわれると,
ⅰ 労働意欲の減退
ⅱ 出社拒否
ⅲ うつ病の発症
ⅳ 長期にわたる欠勤
ⅴ 退職による労働生産性の低下
ⅵ 職場モラルの低下」
等々の様々な問題が生じます。
② 労働者のメンタルヘルスが損なわれる原因
ⅰ いすぎた成果主義の導入
ⅱ リストラによる人員削減による仕事量の増加(過重労働・長時間労働)
ⅲ 周囲のリストラによる過度のストレス(不安)
③ 労働者のメンタルヘルスの見直し
ⅰ 事業場における労働者の心の健康づくりの指針として,
次のa~dの四つのケアを推進する必要がある。
a 労働者自身による「セルフケア」
b 管理監督者による「ラインによるケア」
c 事業場内の健康管理担当者による「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」
d 事業場外の専門家による「事業場外資源によるケア」
ⅱ 上記のa~dの四つのケアの円滑な推進をするために下記e~gの取組みを行うことが望ましい。
e 管理監督者や労働者に対して教育研修を行うこと
f 職場環境等の改善を図ること
g 労働者が自主的な相談を行いやすい体制を整えること
(2)過労死の問題
① 過労死
には「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」という厚生労働省が作成した認定基準があります。
認定基準のポイント
は,次の5点にあります。
ⅰ 発症前おおむね6か月間にわたる疲労の蓄積を評価するとしたこと
ⅱ 時間外労働時間の目安を定めたこと
a 「発症前1か月間におおむね100時間以上」,「発症前2か月ないし6か月間におおむね80時間以上」の時間外労働時間(週40時間を超える労働時間)があれば,業務との関連性が強いと評価する。
b 発症前1か月ないし6か月間の時間外労働時間がおおむね45時間を超える場合は、それが長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まると評価する。
c 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症の関連性が弱いと評価でき、労働時間以外の負荷要因による身体的精神的負荷が特に過重と認められるか否かが重要となる
ⅲ 負荷要因を明確化したこと
業務の過重性の具体的な評価に際して検討する負荷要因を、次のとおり具体的に示しています。
a 労働時間
b 不規則な勤務(予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度、事前の通知状況、予測の度合、業務内容の変更の程度等)
c 拘束時間の長い勤務(拘束時間数・実労働時間数・労働密度・業務内容・休憩・仮眠時間数・休憩・仮眠施設の状況等)
d 出張の多い業務(出張中の業務内容、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、宿発の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況,出張による疲労の回復等)
e 交代制勤務・深夜勤務(勤務シフトの変更の度合、勤務と次の勤務までの時間、交代制勤務における深夜時間帯の頻度等)
f 作業環境(温度環境・騒音・時差等を付加的に考慮する)
g 精神的緊張を伴う業務(通達の別紙に掲げられた具体的業務で、精神的緊張の程度が特に著しいと認められるものについて評価します)
ⅳ 過重性判断の主観的基準を拡大したこと
過重性判断の主観的基準である「同僚等」の定義を、従来の「当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し、日常業務を支障なく遂行できる健康状態にある者」から・「発症した当該労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる同僚労働者又は同種労働者」に拡大しました。
ⅴ リスクファクターの評価を限定したこと
被災者の健康状態を定期健康診断結果や既往歴等によって把握し、リスクファクター及び基礎疾患の状態・程度を十分検討するが、認定基準の要件に該当する事案については、明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り、業務起因性を認める。
・・・ということで「労働CSR」の「雇用問題」と「安全衛生」でした。
如何でしょうか? 何となくCSRに関して理解して頂けましたでしょうか?
なにやら「ブログ」というよりも・・「レジメ」のような内容になってしまい誠に「すまん」こってす。
明日からまたぐたぐたのブログを再開しますね(笑)
ただCSRは何も大企業だけのものではありません。
逆に司法書士事務所を含む中小零細企業にこそ、このCSRを積極的に取り入れることが長い目で見たときに成長力につながっていくのではないでしょうか。
是非CSR・・特に労働CSRに取り組んでほしい・・と思います。
具体的な事例等もありますが、CSRについては以上・・ということで・・(笑)
ところで、厚生労働省所管の中央労働災害防止協会にてストレスチェックができますので一度お試しください。
http://www.jaish.gr.jp/td_chk/pdf/chk_list1.pdf
http://www.jaish.gr.jp/td_chk/tdchk_menu.html
東京大学大学院医学系研究科
http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/jstress/hanteizu/index.htm
おまけ
ところで「CSR」の話にも関係してきますが、いわゆる社用車が盗難に遭い事故を起こされた場合に、その企業に責任があるのか?無いのか?
これについては,自賠法の3条に規定があります。
「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、社用車の場合には会社を指します。
つまり,車の盗難につき車の所有者である会社は、車両管理を徹底していないとその責任を負うこととなります。
また,車が盗難にあった場合の他にも、会社の休日に従業員が勝手に社用車を乗り回して事故を起こした場合も同様に会社はその責任を負います。
こういうところへの管理も、企業の社会的信頼性の確保と考えられますので、注意が必要です。
ところで、
朝夕は随分と過ごしやすい日となりましたね。
風邪を引いたり体調を崩したりしないように、健康管理には注意して働きましょう。
などと言いながら・・あ~なにやら・・・お腹痛いわ・・・