「契約について考えるシリーズ 最終話」です。
今日は「契約を文書にしておく事等々」の意味を考えます。
特にビジネスにおいて「契約書」を作成しておくことの重要性は言うまでもありませんが、特に建築業などでは、今でも契約書を作成せずに請け負いを行い、後々トラブルとなることが多い様に感じています。
後日の紛争のため・・と言うよりも、後日の「紛争を防ぐ」という意味あいでも、「契約書」の作成をお薦めします。
4 「文書」について
(1)文書化の意味
① 文書の要素
ⅰ「何時」
ⅱ「誰が」
ⅲ「どのような内容で」
ⅳ「誰に宛てて書かれているか」
上記ⅰ~ⅳを文書の要素と言います。
※ 特に「誰が」作成したのかという要素は非常に重要です。
文書を作成した者と作成名義人とは通常は一致しており,この場合には「真正に成立した文書」又は「真正な文書」といえ,これに対してこれが一致していない場合には,「不真正な文書」又は「偽造文書」といえます。
但し,私文書の場合には,本人又は代理人の署名又は捺印がある場合には,真正なものと推定(民訴228条)が働きますので,契約書への署名と捺印は非常に重要な意味をもつことになります。
② 文書化にするメリット
一番のメリットは「証拠が残る」=「時間が経過しても内容が変わることがない」ということです。
具体的には,
ⅰ 契約の内容を明確にしておくこと
ⅱ 契約違反の誘惑を防止することができること
ⅲ 後日の証拠とすることができること
(2)書証
証人の証言を証拠とすることを「人証」といい,文書を証拠とすることを「書証」といいます。
① 「人証」は,
記憶や表現の正確性の問題や聞いたことに関する伝聞価値の問題,証人が,能力を失っていたり死亡していたりする場合が考えられる等,証拠として問題や限界があります。
② 「書証」は,
証拠価値が不変であり,客観的評価を行いやすいことから裁判所において判断をする場合にも「書証」は重視されます。
③ 「原本」とは
「ある目的で作成された文書そのもの」をいいます。
④ 「謄本」とは
「原本の全てを写したもの」をいいます。
⑤ 「抄本」とは
「原本の一部(必要部分や関係部分)だけを写したもの」をいいます。
⑥ 「正本」とは
「認証権限がある者が原本と同一であることを認証した文書(判決正本,公正証書正本等)」をいいます。
(3)法律上特に重要な意味を持つ文書
① 信書
ⅰ 信書とは,「特定の者から特定の者に,意思を伝達する文書」をいいます。
(例として,注文書,申込書,承諾書,各種通知書等々)
※ 文書による通知は,原則として相手方に到達した時にその効力が生じることとなります(民法97条,到達主義)。
ⅱ 法律上重要な通知である「相殺」「債権譲渡」「更新拒絶」等は,配達証明付の内容証明郵便で行うことが重要となります。
② 領収書
ⅰ 領収書(受取証書)は,金銭の支払いや,物の引渡しの証拠となるもので,領収書の受領は金銭の支払い等と同時履行の関係にあるので,領収書と引き替えでなければ金銭の支払いを拒絶することもできます。
ⅱ 受領権限の有る者が作成することが必要ですが,用紙等に形式や制限はありません。但し,貧弱な用紙を使ったり,鉛筆などで書いたりすると,後日単なる草稿である等と言いがかりをつけられることも考えれますので注意が必要です。
ⅲ 金額だけでなく,「どの債務の弁済であるか」等を具体的に明確に表示することが必要です。
ⅳ 「領収書の日付」は,重要な証拠として問題となることがありますので,実際に弁済等をした日を正確に記入する必要があります。
③ 委任状
ⅰ 委任状は,ある事柄を他人に委任するときに作成します。
ⅱ 委任事項は具体的かつ明確に記入すべきであり,委任事項や代理人の氏名を空白にした,いわゆる「白紙委任状」は,様々なトラブルの元となりますので,絶対に避けてください。
ⅲ 委任関係は,各当事者はいつでも解除できます(民法651条)。必要に応じて相手方から「一方的に解除できない」という特約条項を入れておく必要がある場合も考えられます。
(4)文書の管理について
① 言うまでも無く,文書の管理は大切なことですので,管理体制のチェックが必要となることもあります。
② 契約書の無い場合
には,
後日のトラブルに備えて,その他の文書(「注文書」「注文書控え」「納品書」「納品書控え」)や,商業帳簿(「売掛帳」「売掛元帳」),並びに,日誌類(「電話注文ノート」「電話連絡帳」「業務日誌」)等で証明できるよに準備しておくことが必要となります。
ということで「文書について」は以上で終了です。
続いては、「契約紛争の主原因」についてです。お話しますね。
ところで・・・全国的に梅雨も明けたようで、日増しに暑さも厳しくなってきましたが、私の事務所ではエコのため(経費節減ともいう)に、午前中はエアコンを使わずにいます。
なので、最近はお昼になるのが待ち遠しい。
まぁそういう訳で、とにかく熱い・・文書の管理も大切だが・・体調の管理にも気をつけねば・・(笑)
5 「契約紛争の主原因」
(1)証拠無し
① 文書が無い場合
ⅰ 契約の内容を相手方が確認した証拠が無い。
ⅱ 契約行為自体の存否の証拠が無い。
ⅲ 仮に相手方が契約の存在を認めても,内容が言った言わないとなる。
ⅳ 悪意が無くても記憶自体が双方とも自分に都合良く覚えていたり,解釈していたりしている。
※など・・正直なところ文書(契約書等)が無いと・・かなり問題ですね。
(2)遊離
① 契約内容の実態と形式の遊離
ⅰ 税金対策から実態と異なる契約書を作成したり,銀行等からの借入に際して実態とは異なる契約をを作成することなどが考えられます。
ⅱ 通謀虚偽表示の問題
通謀虚偽表示とは,相手方と口裏をあわせて(通謀),嘘(虚偽)を,つく(意思表示)ことです。
通謀虚偽表示は原則として無効です(民法94条1項)が,この意思表示の無効を善意の第三者に対して対抗できません(同条2項)。
※ こういう何らかの意図をもってされる,実態とは異なる契約を行う事は,後日に利害が対立すると「実態」と「形式」の両方を主張しあう紛争にもつながりますので,行うべきではありません。
※ どうしてもこういう形式の契約を行わないといけない場合であっても,文書の日付は実際に作成された日を記載しておくべきでしょう。
(3)能力
① 契約行為を行うことができたかの問題
ⅰ 契約の相手方が「未成年者」であった場合。
☆ 契約時の年齢が20歳未満であること
☆ 契約当事者が婚姻の経験がないこと
☆ 法定代理人が同意していないこと
☆ 法定代理人から,処分を許された財産(小遣い)の範囲内でないこと
☆ 法定代理人から許された営業に関する取引でないこと
☆ 未成年者が詐術を用いていないこと
☆ 法定代理人の追認がないこと
上記☆印の要件が全てあてはまれば,未成年者が行った法律行為を取り消すことができます。
ⅱ 契約の相手方が「成年被後見人」であった場合。
☆ 瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができるに取り消すことができます。
☆ 但し,日用品の購入や,その他の日常生活に関する行為については取り消すことはできません。
ⅲ 「詐欺」や「強迫」による契約であった場合
☆ 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができるに取り消すことができます。
ⅳ 「無権代理人」によってなされた契約であった場合
☆ 代理権を有しない者がした契約は,本人が追認をしない間は相手方が取り消すことができます。但し,契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは相手方は,その契約を取り消すことができません。
② 現実の問題
ⅰ 実際問題として,
支払い不能な場合
などが考えられます。
(4)意義
① 契約意識の欠如
ⅰ 契約内容を読まずに,若しくは,契約内容を理解せずに署名押印してしまう人もいますが,一旦契約書に署名押印をしてしまうと,「その内容を知らなかった」ではすまされません。
ⅱ 特に(連帯)保証契約の場合には,主債務者の「絶対に迷惑を掛けない」という決まり文句に,迂闊にも応じてしまう場合もあるようです。
ⅲ 「(連帯)保証をする」ということは,「自分がお金を借りる」のと同じ意味であり,その人にそのお金をあげるつもりが無ければ,(連帯)保証人になるべきではありません。
ⅳ どうしても「(連帯)保証人」にならなければならない場合であっても,リスク分散のために,夫婦が同時にならないことが大切です。
② 書式の誤用
ⅰ 市販されている契約書(特に賃貸借関係の書式)を使った無理な記入に問題が見られる場合があります。
ⅱ 実態の異なる書式に無理なあてはめは避けて,実態に即した独自の契約書の作成を考えるべきでしょう。
ということで「契約紛争の主原因について」は以上で終了です。
ビジネスにおいて、契約の相手方を信用することは大切なことです。
業種によっては、いまだに慣習として「契約書」を作成しないこともあるようですが、契約書を作成することと、相手方を信用していないことは全く関係がありません。
特に初めて取引を行う、契約の相手方が、契約書の作成を拒むようならその人との付き合いは見直した方が良いと思います。
まだまだ続くよ(笑)
つぎは、「立証」について考えてみましょうね。
6「立証」
立証については相手方の確認証拠(自署,記名押印)が大切です。
ここではよく問題となる3つのケースについて考えたいと思います。
(1)保証
① 連帯保証契約の場合
連帯保証をした覚えがないのに,保証債務の履行を請求される場合に,保証契約を「否認」するという争いがあります。
この場合に検討すべきこととは・・・・
ⅰ 本当に勝手に連帯保証人にされたといえるのかの検討
ⅱ 実印・印鑑証明書・委任状等の交付の有無やその経緯に関する検討
上記ⅰ及びⅱの検討が必要となります。
また,署名押印は他人がしていても,本人の了解の上で行われた事実はないかの検討も必要となるかもしれません(これは表見代理の成立の問題で,権原があると信頼した第三者が保護される場合もあります・特に実印や印鑑証明書並びに委任状等の交付や本人の署名押印があると極めて不利に働き,この場合には意思能力に問題の無い成年者の場合にはその意思に基づかないという立証は難しくなります)。
② 紛争予防のポイント
ⅰ 安易に人を信用して「実印」「印鑑証明書」「委任状」等を交付しない。
ⅱ 契約書をしっかりと読み,理解すること。
ⅲ 白紙の「委任状」や「契約書」には署名しないこと。
等が考えられます。
(2)貸金
① 金銭消費貸借契約の場合
人にお金を貸したが契約書が無い場合,「貸した」「借りていない」の水掛け論になります。この場合には貸した側が「貸した」ことを立証しなければなりませんから,仮に裁判を起こしても苦しい立場となります。
ⅰ 契約書等が無い場合には,貸付けを立証するために色々な状況証拠を積み上げていくしかありません。
ⅱ 逆に貸金を返済したのに「領収書」が無い場合には,「返した」ということを借り主側が立証しなければなりません。
② 紛争予防のポイント
ⅰ 契約書の作成が重要となる。
ⅱ 領収書の受領が重要となる。
ⅲ 契約書と領収書等の保存保管が重要となる。
(3)請負
① 請負契約の場合
「契約書が無い」・「契約書があるが追加の工事の記載が無い」・「契約書があるが工事内容の変更につき記載が無い」・「契約書とは別の工事を行った」・「契約書とは別のサービス工事を行った」等,特に建築業において問題となるケースが多い。
上記のような商売の事例では資金繰りに必死のところは契約書が無いことを良いことに色々な理由をつけて支払いを拒むことがあります。
特に間に他の業者が入っている場合で契約書が無い場合には,契約当事者が誰になるのか?・・が問題となる事があり,この場合には「交渉の内容」や「実際の工事の状況」・「支払い請求の経緯」等から具体的に詳しく立証する必要に迫られますので,契約書の大切さが良くわかります。
② 紛争予防のポイント
ⅰ 契約書を嫌がる業者も多いようですが,そのような場合であっても「契約書」では無い「商談合意書」等の柔らかい表現にして,その内容を文書化しておくことを考えてください。
ⅱ 「忙しいから」・「少額だから」・「契約書を作成しないのが慣習」等であっても,「FAXでの交渉のやり取りの保存」や「名目の如何を問わず双方で送付や受領した書類」等の他,通信記録自体が証拠となる場合もありますので,特に簡単でも良いので注文書をFAXでもらっておくことは大切です。
ⅲ 尚,相手方の作成した物でないと証拠価値がありませんので,
必ず「相手方に作成してもらい」,「相手方に署名(できれば押印まで)」してもらってください。
ⅳ 最近では,「電子メール」によるやり取りも保存しておけば,証拠として採用されるかもしれませんので,仕事が終わりその支払いがなされるまでは,メールを保存しておくことをお薦めします(但し,メールは改ざんや内容の変更が安易に行えるので,それだけで証拠能力があるとは言いづらいですが・・)。
ⅴ 「追加の工事の部分」が,サービスか否かで揉めることも良くあります。
工事に「追加」又は「変更」が有った場合には,少なくともその部分につき図面に記載し,注文主の署名をもらう等の方法で確認しておくべきです(注文主の確認のある文書は証拠価値が非常に高いです)。
ⅵ その他「納品」や「引渡し」についても,証明し立証できるようにしておけるように十分に留意するべきです。
昨日と今日で、「契約について考えるシリーズ」の基本的な部分は以上で終了です。
ところで今年もあと半年を切りました。
さて・・貴方にとっては,「あと6ヶ月しかない」でしょうか?
それとも「あと6ヶ月もある」でしょうか?
えっ・・私ですか?
私は・・今色々とやりたいことを準備していますが,全く時間が足りませんので「あと6ヶ月しか無い」と思っていますが,焦ってもしかたないので・・・・
「あと6ヶ月もある」と自分に言い聞かせながら,準備を急ぎます。
さてさてどうなるのでしょうね m(_ _)m 。
まぁ、何にしても、契約には「契約書」を作成して、後日に紛争とならないよう、若しくは、後日の紛争に備えておきましょうね。
もしも不幸にして紛争になった場合には、お近くの弁護士若しくは司法書士までご相談ください。