民法896条(相続の一般的効果)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
相続による「権利の承継」は、包括的に承継されます
包括承継の意味
相続によって、これまでは被相続人が主体であったすべての法律関係が、全体として「新たな主体」=「相続人」にその担い手を変えることを意味します。
遺言処分の無い場合に、相続によって相続人が承継することになる被相続人の財産の総体を「相続財産」と言います。
「相続財産」は、被相続人(亡くなった人)が死亡した時に有していた
の総体であり・・・それら全てを包括的に引き継ぐということになります。
つまり・・・
「預貯金は相続するけど・・・借金は相続しない!・・・ということはできない」と言うことですね。
相続が開始すると・・・原則として、被相続人(亡くなった人)の全てを引き継ぐことになりますので、被相続人にどのような財産(相続財産)があるのかをできるだけ速やかに調査する必要があります。
被相続人が残した財産(相続財産=遺産)が、いわゆるプラスの遺産のみの場合には、それ程急がなくても良いのですが、もしもには、借金などのマイナスの遺産がある場合や、マイナスの遺産しかなかった場合
には、「相続の放棄」を検討しなければいけない事もあります
もしも「相続を放棄」するのであれば、原則として「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」に行う必要があります。
いずれにしても・・・
相続が開始した場合には、速やかに相続財産の確認や調査を行ってください。
相続財産となるもの
財産的権利等
※いわゆるプラスの財産です
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現金や預貯金
- 現金にはタンス預金を含みます
- 銀行・信用金庫・信用金庫・郵便局など
- 投資信託・株式・国債など
- ネット銀行やネットでの株式取引等々・・IDとパスワードが必要な場合、それらをどのように管理していたのか?によって、その存在自体を見落としてしまう可能性のありますので注意が必要です。
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不動産
- 被相続人が所有する不動産
- 登記済権利証書、登記識別情報等を確認してください
- 最寄りの法務局で「不動産全部事項証明書」を請求してください
- 「不動産全部事項証明書」を確認すれば、借金の有無も確認できる場合があります
- 有であった場合には、「名寄せ台帳」が他人名義で管理されている可能性もあり、被相続人名義で「名寄せ台帳」を請求しても他人名義で管理されている共有物件は記載されていない事もありますので、注意が必要です。
- 「名寄せ台帳」は、市町村役場で作成されますので、複数の市町村に不動産を所有している場合には、所有する不動産所在地の市町村役場の全てに「名寄せ台帳」を請求する必要があります。
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車や船舶
- 原付、バイク等も含みます
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物権
- 入会権のような特殊なものを除いて、原則として相続されます
- 判例では、遺骨の所有権は、相続人に帰属すると解されていま
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債権
- 原則として「債権」も相続されます
- 生命侵害による財産的損害の賠償請求権は、即死の場合でも損害賠償請求権の相続性を肯定されています
- 精神的損害の賠償請求権の相続も相続性が肯定されていますが、生命侵害による財産的損害の賠償請求権に比べると問題があるとされています
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占有権
- 判例では、相続人が相続財産を現実に支配するに至ったか否かに関係なく、被相続人の有していた占有権が相続人に承継されるとしています
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無体財産権
- 著作権や工業所有権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)は,相続の対象となります
- ただし、著作人格権(公表権・氏名表示権等)は、相続の対象とはならず、著作者の死後は、相続とは関係なく、著作者の遺族の固有の権利となるし、相続された著作権の存続期間は50年に限られています
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借家権
- 家屋賃借権も財産権の一つである以上、一般の賃借権と同様に相続人に相続されて、相続人が新たな賃借人となります
- 被相続人と同居していた人(現住者)に、相続権がなかった場合でも居住権という新しい概念を構成したりしながら,相続権のない現住者の居住の確保は相続人の借家権を援用することによって達成しようとしています。よって現住者は、相続人の借家権に基づいて、適法に家屋に居住していると主張して、家主からの明渡を拒むことができます
- なお、被相続人に相続人がいない場合には、借地借家法36条によって、現住者に借家権を承継する途が開かれています
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形成権
- 相続が包括承継である以上、「取消権」「解除権」「買戻権」「債権者取消権」などの形成権も、すべて当然に相続されます
財産的義務等
※いわゆるマイナスの財産です
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保証債務
- 一般的に保証債務は相続されますが、保証債務には「相続されるもの」と「相続されないもの」があります
- 相続される保証債務・・・具体的な債務額の確定している(普通の)保証債務
- 相続されない保証債務・・・身元保証(具体的債務の確定していない場合の身元保証)や信用保証(肥料等の卸売取引について、責任限度額及び保証期間を定めずにした連帯保証)など、これらの債務が相続人に予測の出来ない責任を生ずる可能性のある債務の場合
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罰金納付義務
- 判例によると「罰金納付義務も相続される」となっています
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滞納税金納付義務
- 既に滞納している税金は勿論のこと、特に被相続人が所有していた不動産の固定資産税などの今後発生する税金についても相続人がその納付義務を引き継ぐこととなります
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借金
- 被相続人の借金は相続されます
その他の相続財産について
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無権代理行為の権利義務
- 無権代理人が本人を相続した場合
無権代理行為は、本人の追認が無い限り無効となりますので、無権代理人は履行または損害賠償の責任を負います。
もしも無権代理人が本人を単独相続すると、目的物は相続人の所有となり、相手方は民法117条の1によって、現実に履行を請求できることとなります。
この場合、無権代理人が本人の有する追認拒絶権(追認拒絶権は、本人を無権代理人から守るために認められているものです)を相続したとしてそれを行使することは、信義則からもできません。
共同相続人の一人が無権代理人であるときには、被相続人がほんにんとして有する追認権及び追認拒絶権は相続人全員に承継されるから、全員の追認がなければ無権代理行為は共同相続人に対して有効とはなりません(共同相続人は追認を拒絶できます)。 - 本人が無権代理人を相続した場合
この場合には、相続人は本人として追認権と追認拒絶権を固有するとともに、追認を拒絶すれば負うであろう被相続人の履行または賠償の義務を承継します。
- 無権代理人が本人を相続した場合
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生命保険
- 被相続人が自己を被保険者とする保険契約において、被相続人を受取人に指定してある場合には、相続の対象となると考えられます(ただし、被相続人が自己を被保険者とする保険契約において、相続人を受取人に指定してある場合には、相続人が保険金を受けとるのは「保険契約の効果」であって、相続による取得ではありません)。
- 共同相続人の遺産取得の公平を保つために、保険金は特別受益(民法903)、及び、遺留分減殺の対象となります。
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退職金
- 公務員や、会社その他の従業員が死亡した際に給付される死亡退職金の多くは、法律や労働協約・就業規則によって、その受給権者の範囲や順序が定まっています。
- 指定受給権者は、退職金を自己の固有の権利として請求することができます。
- 死亡退職金には、遺贈的要素が無いので、遺留分減殺の対象とはなりません。
- 受給権者について何も定めていない場合には、受取人である被相続人の地位を相続人が承継して死亡退職金を受け取ることとなります。
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遺族年金
- 遺族年金(恩給法、厚生年金保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法等々)は、その制度の趣旨からいっても、特別法によって受給権者に与えられる固有の権利である。
特別受益と考えることもできません - したがって、遺族年金は相続財産ではありません
- 遺族年金(恩給法、厚生年金保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法等々)は、その制度の趣旨からいっても、特別法によって受給権者に与えられる固有の権利である。
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社員権
- 「株式会社の株主たる地位」「合同会社の出資者たる地位」「合資会社の有限責任社員の地位」は相続されます。
- 「合名会社の社員権」「合資会社の無限責任社員の地位」は相続されません(但し,定款の規定により、相続をさせることは可能です)。
- 民法上の公益法人の社員権は、相続されません。
- 組合員たる地位は、特約が無ければ相続されません。
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権原の瑕疵などのいわゆる財産法的地位
- 「不動産の譲渡に伴う登記移転義務」や、「債権譲渡の場合の通知義務」、「売主が負うべき担保責任」、「時効を援用しうる地位」、「時効利益を放棄する地位」といった財産法上の地位も相続されます。
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訴訟上の地位
- 訴訟物が相続性を有する場合には、相続人が訴訟当事者となり相続の対象となります。
- 訴訟物が一身専属で相続されない場合でも、訴訟費用の負担者を決定しなければならない範囲で訴訟は相続人に受け継がれます。
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一身専属権
- 被相続人の一身に専属する権利義務とは
被相続人だけに帰属して、相続人に帰属することのできない性質をもった権利義務を意味しますが、いかなる権利義務が一身専属となるのかは、それらの権利義務を相続人に承継させるのが、妥当なのか否かという角度から個別的に検討を必要とします。 - 身分法上の権利
①「親の権利」・「妻の権利」は一身専属権であり相続されません。
②「扶養の権利義務」は、協議又は審判によってその具体的内容が確定している場合であっても、相続はされません(但し、延滞扶養債権債務は,権利者または義務者の死亡によって消滅することはありません)。
③「離婚の際の財産分与請求権」も一身専属と考えられていますが、分与請求をした後に、請求権者が死亡した場合には、分与請求権は相続されます。
④「離縁請求権」・「認知無効確認請求権」・「特別縁故者の相続財産分与請求権」は一身専属権であり、相続されません。 - 一定の身分を前提とする権利義務でも、財産的なものは相続されます。
「相続回復請求権」・「相続を承認又は放棄する権利」・「遺留分減殺請求権」などは相続されます。 - 解釈上、生命侵害による損害賠償請求権のように、被相続人の死亡によって発生するものでも、相続財産に含めて考えるべきである。
- 被相続人の一身に専属する権利義務とは
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祭祀財産(民法第897条)
- 系譜・祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。 - 前項の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
- 系譜(系図)や祭具(位牌,仏壇など)・墳墓(墓地を含む)などの祭祀財産の承継は、通常の相続財産とは別に承継(相続)されます。
- 祭祀主宰者とは
- 祭祀主宰者の決定
祭祀主宰者を指定する(生前行為・遺言どちらでもできます)
地方の慣習に従います
慣習が不明な場合は、申立により家庭裁判所が祭祀財産承継者を定めます
祭祀財産の管理・(仏事の場合の喪主を務める)等、祭祀を行う者のことを言います。
祭祀財産(系譜・祭具・墳墓等)は性質上、一般相続財産とは切り離して、祭祀主宰者が単独で承継することとなります。 - 系譜・祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
相続財産に借金があるか否かの調べ方
通帳の確認
借金をリボ払い(定額支払い)している場合など,被相続人が利用していた金融機関(銀行・信用金庫・信用組合等々)の通帳を確認(記帳)することで,生前に借金をしていたか等を確認することができます。
なお、
預貯金については、通帳が見つかれば残高を調べ、かつ同じ銀行に複数の口座がないか名寄せを依頼してください。
通帳の存在自体が不明の場合は、銀行等へ「預金の残高証明」や「預金台帳の写し」を請求します。
ただし、この場合には、戸籍謄本などで、相続人であること、及び、運転免許証あるいは印鑑証明書などで本人であることの証明を求められると思いますので、あらかじめ準備してから請求してください。
ところで・・・
これらのお問い合せを行おうとする金融機関によっては「ほかの相続人の同意が必要だ」とか、「相続人の全員で請求してくれ」等と要求してくることも考えられます。
従来は、預金等の相続財産は、各相続人が法定相続分に応じて分割される・・・と考えられていました。
そのため「預金者が死亡した場合、その共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(民法264条、252条ただし書)というべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。・・・」と考えられていたので、相続人の一人からでもそれらの請求をすることもできていた金融機関もありましたが・・・
最近・・・最高裁で預金債権について下記のとおり判断がされました・・・
「・・・共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と判示され、
かつ
最高裁判所平成29年4月6日判決でも
「・・・信用金庫における定期預金、定期積み金についても、共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」との判断が示されました。
上記二つの最高裁判決により、
- 普通預金
- 定期貯金
- 定期預金
- 定期積金
の全てについて、各相続人の法定相続分に応じて、当然に分割されることにはならない・・・と言うことになりました。
つまり・・・
預貯金は、遺産分割対象であるので、各相続人からの法定相続分に基づく払戻しについては応じない
結果として・・・
預貯金は、遺産分割が終了するまで凍結されてしまうことが充分考えられます。
つまり・・・今後は、これまで以上に、亡くなられた方が立ち寄りそうな銀行を調査することは事実上かなり地道で大変な作業となりますので、生前に確認できる場合には、できるだけ確認しておくことが必要です。
郵便物の確認
被相続人の郵便物の中に,金融会社(消費者金融や,クレジット信販会社等々)からの郵便物があるか否かを確認してください。
借金の存在が明らかだが,その額がわからない場合
クレジット会社の指定信用情報機関として「株式会社シー・アイ・シー」への信用情報の開示請求を行います。
消費者金融(サラ金)の信用情報機関として「株式会社日本信用情報機構・略称:JICC(ジェイアイシーシー)」への信用情報の開示請求を行います。
銀行系の借金の確認は,「全国銀行個人信用情報センター」への信用情報の開示請求を行います。
開示請求に必要書類として考えられるもの(詳細は請求先に確認してください)。
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 身分証明書の写し(コピー)
- 手数料
- 金銭消費貸借契約書や借用証書等
遺産の整理をしていく中で、金銭消費貸借の契約書や、借用証書が見つかる場合があります。
他人の借金の保証人になっている場合もあるので、それにも注意する必要があります。
不動産の全部事項証明書(不動産登記簿謄本)
被相続人が所有していた不動産の全部事項証明書を取得する(不動産を管轄する最寄りの法務局)
- 全部事項証明書の乙区欄(所有権以外の事項)に、(根)抵当権が設定されていないか等、登記簿におかしなものが登記されていないかを確認してください。